睡眠障害総論

精神科
  1. 睡眠障害
    1. 睡眠について
      1. ノンレム睡眠
      2. レム睡眠
    2. 脳波と上行性網様体賦活系について
      1. 上行性網様体賦活系
      2. 脳波の電位発生源
      3. 脳波のリズム発生源
      4. 脳波の種類
        1. δ波
        2. Θ波
        3. α波
        4. β波
        5. γ波
    3. サーカディアンリズム
      1. 睡眠覚醒スケジュール障害(概日リズム睡眠障害)
      2. 時差への適応
    4. 神経症性不眠
      1. 神経症性不眠の治療
    5. ナルコレプシー
      1. ナルコレプシーの症状
        1. 入眠時幻覚
        2. 睡眠麻痺
        3. 睡眠発作
        4. 情動脱力発作
      2. ナルコレプシーの治療
    6. 睡眠時無呼吸症候群
      1. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
        1. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の危険因子
        2. アデノイド増殖症
          1. 扁桃
          2. アデノイド増殖症の症状
          3. アデノイド増殖症の治療
        3. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の病態
          1. ①肺胞低換気
          2. 肺性心
          3. ②呼吸再開に伴う急激な酸素濃度の増量
        4. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検査
          1. アプノモニター(簡易睡眠時無呼吸検査)
          2. ポリソムノグラフィ
        5. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療
          1. 持続的気道陽圧法(CPAP)
          2. 口腔内装具(マウスピース)
          3. 生活指導
      2. 中枢性睡眠時無呼吸症候群
        1. 呼吸中枢
        2. 特発性中枢性無呼吸
        3. Cheyne-Stokes呼吸
          1. Cheyne-Stokes呼吸の機序
          2. Cheyne-Stokes呼吸の原因
    7. 睡眠時随伴症(パラソムニア)
      1. レム睡眠からの覚醒障害(レムパラソムニア)
        1. REM睡眠行動障害
        2. 悪夢障害
      2. ノンレム睡眠からの覚醒障害(ノンレムパラソムニア)
        1. 夜驚症
        2. 夢中遊行症
    8. アカシジアとむずむず脚症候群の鑑別
      1. アカシジア(着座不能症)
      2. むずむず脚症候群
        1. むずむず脚症候群の原因
          1. 妊娠中
          2. 尿毒症

睡眠障害

睡眠について

睡眠は脳波所見によってノンレム睡眠とレム睡眠に分けられる。約72分のノンレム睡眠と約18分のレム睡眠を合わせた約90分の周期を繰り返している。

ノンレム睡眠のときは脳が休んでいるが筋肉は完全には休んでいない。レム睡眠のときは筋肉が休んでいるが脳は活動している。このように脳と筋肉が交互に休んでいるのは生存という観点から考えて有益だからである。寝ていたとしても外敵に襲われたらすぐに気づかないといけないし、地震が起きたら目をすぐに覚ます必要がある。脳と筋肉の両方を完全に休めるとすぐに目を覚ますことができないので、生存という観点から考えると危険である。

ノンレム睡眠

ノンレム睡眠(non-REM睡眠)は緩徐な眼球運動が特徴となる睡眠であり、入眠直後に多い。深いノンレム睡眠は朝方に向けて減少していき覚醒につながる。

脳波所見はθ波とδ波といった高振幅徐波である。

ノンレム睡眠は脳を休める睡眠で、レム睡眠は身体を休める睡眠である。意外かもしれないが寝返りを打つのは浅い眠りとなっているレム睡眠ではなく、ノンレム睡眠なのである。

レム睡眠

REM睡眠(レム睡眠)のREMはrapid eye movement からきており、速い眼球の動きを伴うことと抗重力筋(呼吸筋と眼球を動かす筋肉以外)の筋活動が停止していることが特徴の睡眠である。

レム睡眠のときに夢を体験する。
レム睡眠の時間は年を取るにつれて減少するので、乳幼児に多く高齢者では減少する。

脳波所見は覚醒しているときに非常に近い状態であり、α波やβ波がみられる。

脳波所見は覚醒しているときに非常に近い状態であるが、骨格筋(抗重力筋)の筋活動は停止している。このため、筋緊張は低下しているので寝返りを打つこともできない。このため、金縛り(頭は比較的に起きている気がするのに身体が動かない)が起こることがある。

脳波と上行性網様体賦活系について

上行性網様体賦活系

上行性網様体賦活系は脳幹網様体賦活系とも呼ばれ、「体の各部からの感覚神経→脳幹網様体→視床→大脳皮質」という経路で大脳皮質を絶えず刺激することで覚醒状態を維持・調節する機構を指す。
上行性網様体賦活系が脳波の発現機構である。

脳波の電位発生源

脳波とは大脳皮質に存在する大錐体細胞が視床からのインパルスを受けた結果として生じたシナプス後電位を頭皮上の電極で捉えたものである。つまり、電位発生源(generator)は大錐体細胞(large pyramidal cell)である。

脳波のリズム発生源

脳波のリズムは視床で形成される。リズム発生源(pace-maker)は視床の中にある視床網様ニューロン(視床網様核:thalamic reticular nucleusを構成する)である。
言い換えると、脳波の同期化(synchronization of EEG)を助けている。「脳波の同期化」とは脳波を作り出している脳幹網様体賦活系という脳内における電子回路のようなものをうまく回すというようなイメージを指す言葉ではないだろうか。

ちなみに間脳とは視床や視床下部などの中脳と大脳の間にある部分を指す。また、脳幹とは広義には大脳半球と小脳以外の部分を指して間脳・中脳・橋・延髄を含む。狭義には中脳・橋・延髄のみを指す。

脳波の種類

δ波

δ波(0.1~4Hz)はノンレム睡眠でみられる。

Θ波

Θ波(4~7Hz)はノンレム睡眠でみられる。

α波

α波(7~12Hz)は覚醒時に安静にすると後頭部において閉眼時に出現して開眼で消失する。レム睡眠でもみられる。

β波

β波(13~30Hz)は覚醒時にイライラしている時や複雑な計算をしている時など、脳が活動している時に出現する。レム睡眠でもみられる。

γ波

γ波(30~100Hz)は通常の脳波判読では解析の対象となっていない。

サーカディアンリズム

成人における周期が約25時間である深部体温や体内時計やホルモン分泌などの生体リズムを指す。

1日は24時間なのでサーカディアンリズム通りであると人は少しずつ夜型になっていくはずである。しかし、実際には朝日(高照度光)を浴びることなどによって調節されており、規則正しい生活を送ることができるようになっている。

深部体温のサーカディアンリズムが睡眠とうまくマッチすることが睡眠の質と深く関わってくるといわれている。

サーカディアンリズムは加齢によって前進するので、中高年は睡眠時間帯が早くなる。おばあちゃんが早めに寝て、朝早くから起きるのはこういう理由である。

睡眠覚醒スケジュール障害(概日リズム睡眠障害)

サーカディアンリズムの調節が上手くいかず望ましい時間帯(通常は夜から朝にかけて)に睡眠がとれないことによって、日常生活に影響が出る障害を指す。

簡単に言い換えると「昼夜逆転」してしまうということである。

夜間勤務による交代勤務睡眠障害や時差症候群(時差ぼけ)などが含まれる。

治療は朝の高照度光療法または夜のメラトニン投与によってサーカディアンリズムを調節することで行う。

時差への適応

時差への適応は、前進よりも後退させる方が容易である。

日本を朝6:00に出発して12時間のフライトをするという具体例で考えてみる。

自分の体内時計が夕方18:00のときに、現地時刻23:00のAと現地時刻13:00のBではどちらが適応しやすいだろうか。

自分が普段23:00に就寝して7時間睡眠する場合だと現地Aでは到着した途端に就寝しなければいけない。体内時計が18:00なのにである。これは普段生活していたとして、ある日急に18:00~1:00で睡眠をするようなものである。

一方で、現地Bでは現地時刻23:00のときに体内時計は4:00となる。これは普段生活していて、ある日急に4:00~11:00で睡眠をするようなものである。つまり、現地Bでは適応するために「夜更かし」をしなければいけないということである。

さて、普通の人は「夜更かし」をする方が楽ではないだろうか。休日はつい「夜更かし」をしてしまうものの、平日は規則正しい生活を送ることができている大学生も多いであろう。

現地Aの時差に適応することが「前進」であり、現地Bの時差に適応することが「後退」である。

神経症性不眠

不眠症の原因として最多である。毎晩眠れるかどうか自体を心配することによって、逆にその精神的緊張や不安が中枢神経系に覚醒状態を引き起こして入眠困難となる。

神経症性不眠では入眠困難を主訴とする患者が多いのに対して、うつ病性不眠では中途覚醒や早朝覚醒を主訴とする患者が多いという違いがあることに注意する。

神経症性不眠の治療

生活指導・認知行動療法・睡眠導入薬・高照度光療法で治療をする。

生活指導では「就寝・起床時刻を一定にすべき」・「寝床で睡眠以外のことをするのは避けるべき」など患者が不眠を改善できるような助言をする。

「眠れないのではという不安」が強い患者は全般性不安障害に近い状態かもしれないので、患者の「不安」に対する認知に働きかける認知行動療法で「不安」を取り除くのは有効となる。

また、「眠れないのに我慢して無理に寝床にいる」ことが不眠を悪化させると判明しており、「眠れない場合には思いきって寝床から出て、どうせいつかは眠くなるのだからそれまで起きていようと割り切って下さい」などとアドバイスすると良い。

ナルコレプシー

自己免疫機序によって脳内のオレキシン神経細胞が破壊されることで、覚醒維持に重要な役割を担うオレキシン(ヒポクレチン)が低下して引き起こされるという説が有力である。ナルコレプシーの患者は全例でHLA-DR2が陽性であることが自己免疫疾患という可能性を強く示唆する根拠になっている。

ナルコレプシーの症状

症状としてはレム睡眠が日中夜間問わずに不安定に出現してしまう。これによって入眠時幻覚・睡眠発作・睡眠麻痺・情動脱力発作が起こる。

入眠時幻覚

入眠時幻覚とは寝入りばなにひどく鮮やかで怖い夢をみるという症状であり、患者は「寝入りばなに黒い猫が出てきたりして、怖くて眠れない」とか「寝入りばなに誰かに呼ばれる気がする」などと訴える。

睡眠麻痺

睡眠麻痺とは主に寝入りばなに入眠時幻覚に一致して、いわゆる金縛り体験が起こることを指す。

正常であれば入眠するとノンレム睡眠→レム睡眠という睡眠リズムになるが、ナルコレプシーの患者は入眠の直後にレム睡眠が生じてしまう。このために入眠時幻覚と睡眠麻痺が起こってしまうのである。

睡眠発作

睡眠発作とは耐え難い眠気に伴って「会議中でも眠ってしまう」というような通常ありえない状況で実際に眠ってしまうことを指す。

情動脱力発作

情動脱力発作とは大笑い・驚き・嬉しいなどの強い感情の動きがきっかけとなって、抗重力筋の緊張が突然喪失してしまうことで「大笑いすると突然全身の力が抜ける」・「日中に大笑いすると膝の力が突然に抜けることがある」といった症状が出る。

情動脱力発作はレム睡眠時の抗重力筋の筋活動停止のメカニズムが誤作動してしまうことによると考えられている。

情動脱力発作はカタプレキシーとも呼ばれる。カタプレキシーは緊張病症候群に特徴的な症状であるカタレプシーと名前が似ているので混同しないように注意する。

ナルコレプシーの治療

レム睡眠が不安定に出現することを改善するためにレム睡眠阻害作用を持つ三環系抗うつ薬(クロミプラミン・イミプラミンなど)を投与して治療する。

また、眠気に対してはメチルフェニデートなどの精神刺激薬(中枢神経刺激薬)を投与することで脳神経の活動を活発にして眠気を除去することで治療する。

睡眠時無呼吸症候群

一晩(約7時間)の睡眠中に30回以上の無呼吸(10秒以上の呼吸停止)が確認されるものを睡眠時無呼吸症候群と定義する。

無呼吸時に睡眠が中断することで慢性的な睡眠不足となり、昼間の眠気を伴う過眠症に分類される。

睡眠時無呼吸症候群はまず呼吸中枢の異常によって起こる中枢性睡眠時無呼吸症候群と気道が塞がれることによって起こる閉塞性睡眠時無呼吸症候群に分けられる。

中枢性睡眠時無呼吸症候群はさらに特発性中枢性無呼吸とCheyne-Stokes呼吸に分けられる。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は気道が塞がれることによって引き起こされる病態を指し、睡眠時無呼吸症候群のほとんどを占める。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の危険因子

上気道狭窄を引き起こすものが閉塞性睡眠時無呼吸症候群の危険因子となる。

大人の危険因子としては先端巨大症・小顎症(下顎発育不全)・肥満・飲酒・薬剤が挙げられる。

先端巨大症では舌が大きくなる巨大舌となったり、軟口蓋が厚くなることで上気道狭窄が引き起こされやすくなる。

小顎症(下顎発育不全)は下顎が先天的に小さいために舌が咽頭にはみ出してしまうので上気道狭窄が引き起こされやすくなる。

肥満では軟口蓋や咽頭周囲にも脂肪が沈着して上気道狭窄が引き起こされやすくなる。

飲酒では舌の筋肉が緩んで咽頭に落ち込みやすくなるので上気道狭窄が引き起こされやすくなる。

ベンゾジアゼピン系薬剤には筋弛緩作用があるので上気道狭窄が引き起こされやすくなる。

また、小児の危険因子には大人の危険因子に加えてアデノイド肥大・扁桃肥大が加わるのが重要である。

アデノイド増殖症

アデノイド増殖症とはアデノイド(咽頭扁桃)が肥大したり炎症を起こすものを指し、たんにアデノイドとも呼ぶ。扁桃肥大とは口蓋扁桃が肥大したり炎症を起こすものを指す。

扁桃

扁桃とは咽頭においてリンパ組織が集合したものであり、咽頭扁桃・耳管扁桃・口蓋扁桃・舌扁桃が咽頭を取り囲むように存在してWaldeyer咽頭輪と呼ばれる輪状の構成をしている。

免疫機能の脆弱な幼児期に病原菌の侵入を防ぐという生理的な働きを持ち5~7歳が大きさのピークである。その後、身体の成長とともに小さくなっていき、免疫機能が発達し終わる思春期までに退化する。

アデノイド増殖症の症状

咽頭扁桃(アデノイド)が肥大したり炎症を起こすことによって副鼻腔炎・鼻閉(鼻詰まり)・閉鼻声(鼻が詰まったときの声)や滲出性中耳炎を引き起こす。鼻を後ろ側から塞ぐと鼻汁がうっ滞して炎症を起こし副鼻腔炎・鼻閉・閉鼻声となるし、耳管を塞ぐと耳管狭窄症となり炎症も加わって滲出性中耳炎となる。滲出性中耳炎は小児の難聴の原因の大部分を占めており、言い換えるとアデノイドが小児の難聴の原因となるともいえる。アデノイド肥大は成長するにつれて軽快していくので、滲出性中耳炎は発育とともに罹患頻度が著しく減少する。

また、アデノイド肥大・扁桃肥大によって気道が塞がれるといびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となる。

実際にアデノイド肥大・扁桃肥大がかなり悪化すると「嚥下障害」をきたすことがあるが、医師国家試験問題においてアデノイド肥大・扁桃肥大によって引き起こされる症状に「嚥下障害」は含まれていない。これはアデノイド肥大・扁桃肥大の小児の多くが「食べにくく飲み込みにくい」と訴えて「食べたり飲み込むのが遅い」のだが、この状態を「嚥下障害」という言葉で表現するには少し大袈裟であり、よっぽどひどいアデノイド肥大・扁桃肥大でなければ「嚥下障害」には当てはまらないからであると考えられる。

アデノイド増殖症の治療

睡眠障害の影響が大きければアデノイド切除・扁桃摘出で治療して、影響が小さければ経過観察をする。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の病態

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の病態は主に①肺胞低換気②呼吸再開に伴う急激な酸素濃度の増量によって引き起こされる。

①肺胞低換気

肺胞低換気によって低酸素血症となり、これが交感神経緊張の亢進を招いて持続的な心血管負荷の原因になる。睡眠中に著名な血圧上昇を認める理由である。そして、低酸素血症はエリスロポエチン産生を刺激して二次性多血症を引き起こす。

また、肺胞低換気によって胸腔内が陰圧となる。これは上気道が閉塞していて空気が入ってこないが、身体は横隔膜を下げて胸郭を拡張させて自発呼吸をなんとか行おうとするためである。胸腔内が陰圧だと胸腔の中に空気と血液が入りやすくなる。これによって右心房への静脈還流量が増加する。

肺性心

肺循環の障害などによって肺動脈圧の亢進をきたし右心室に負荷がかかった結果、右室拡大が生じて最終的には右室不全となる病態を指す。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群において、肺動脈は低酸素血症に伴って収縮して肺高血圧がもたらされる。

また、胸腔内陰圧は左室に圧をかけることになるので左室拡張機能を低下させる。一方で、右心への静脈還流量は増加してしまうために肺うっ血を引き起こす。

このような理由で閉塞性睡眠時無呼吸症候群では肺性心となりやすく、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者は心房細動を合併した心不全によって突然死することが多い。

②呼吸再開に伴う急激な酸素濃度の増量

呼吸再開に伴う急激な酸素濃度の増量は酸化ストレスの増加を引き起こして、炎症を生じさせて血管内皮機能を障害する。これが動脈硬化につながり生活習慣病(高血圧・脂質異常症・糖尿病)の原因となる。他に喫煙・肥満・飲酒が酸化ストレスの危険因子となるので、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者には生活指導で禁煙・体重減少・禁酒を推奨する。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の検査
アプノモニター(簡易睡眠時無呼吸検査)

睡眠中の呼吸状態・酸素飽和度をチェックして記録することで睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングを行う検査である。簡易型検査であり、自宅で検査することができる。

アプノモニターでより詳細な検査が必要となった場合にはポリソムノグラフィを行う。

ポリソムノグラフィ

睡眠の質を詳細に検査するために、睡眠中の脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・心電図・いびき・動脈血酸素飽和度を同時に記録する。意外にも測定項目に血圧は含まれないので注意する。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療
持続的気道陽圧法(CPAP)

機械で圧力をかけた空気を鼻から気道に持続的に送り込み続けることによって気道を広げて狭窄を防ぐ治療法である。

口腔内装具(マウスピース)

睡眠時にマウスピースを上下顎の歯列に装着することによって、下顎を前方に移動させたまま固定することで上気道を広げ狭窄を防ぐ治療法である。

生活指導

禁煙・禁酒・体重減少を推奨する。

仰臥位で寝ると舌根が沈下して気道が塞がれやすいので、側臥位での就寝を推奨する。

中枢性睡眠時無呼吸症候群

中枢性睡眠時無呼吸症候群は呼吸中枢の異常によって睡眠時無呼吸となる病態であり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と比べると割合はかなり低い。中枢性睡眠時無呼吸症候群に分類されるものとして特発性中枢性無呼吸とCheyne-Stokes呼吸がある。

呼吸中枢

延髄にある呼吸中枢は延髄自身が持つ中枢性化学受容器と総頚動脈分岐部に存在する頚動脈小体が持つ末梢性化学受容器によって刺激されて調節されている。化学受容器はPaCO2やPaO2といった血液ガスの変動を感知する。

特発性中枢性無呼吸

原因は未だに明らかではないが、睡眠中に呼吸中枢からの命令が無くなることによって起こる。

換気量は変わらないが、突然に呼吸が止まってしばらくするとまた再開する呼吸。

Cheyne-Stokes呼吸

慢性的な血液ガスの異常が呼吸中枢の反応性を亢進させた結果、血液ガスの変動に呼吸中枢が過剰に反応するようになり1回換気量や呼吸数が大きく変わる呼吸である。

Cheyne-Stokes呼吸の機序

例えば呼吸によってPaCO2が低下すると、それに過剰に呼吸中枢が反応してしまい呼吸が十分に足りていると勘違いして呼吸をしばらく止めてしまう。

無呼吸が持続してPaCO2が上昇してくると、今度はそれに過剰に反応してしまって換気を急激に増加させる。

これが繰り返されることで無呼吸の相と呼吸の漸増・漸減の相ができる。

Cheyne-Stokes呼吸の原因

重症心不全では肺うっ血などで慢性的な血液ガス異常となるし、脳血管障害や脳梗塞などで中枢性化学受容器の部分が血液ガス異常となってしまいCheyne-Stokes呼吸となることがある。

睡眠時随伴症(パラソムニア)

睡眠時随伴症とは寝ぼけたような行動をしてしまう病気であり、ノンレム睡眠中に起きるものとレム睡眠中に起きるものがある。

レム睡眠からの覚醒障害(レムパラソムニア)

REM睡眠行動障害

夢の中で動いたりしているときにも実際には脳で運動指令は出ている。しかし、通常であれば脳からの運動指令が筋肉に到達しないようになっているので動きとなって現れることはない。

上記のように正常の場合にはREM睡眠中に夢を見ても錐体路が遮断されて動けない状態となっているので夢内容が行動となって現れることはないが、REM睡眠行動障害ではREM睡眠中に身体が動き出して「夢内容の行動化」をしてしまう。夢は次の日に目を覚ましてから思い出すことができる。

「夜間に大声をあげて寝言を言ったり、笑ったり、手足をバタバタ動かしてベッド周囲の物を落としたりする」といったような行動がREM睡眠行動障害では確認される。

睡眠障害とその原因を調べるために、睡眠中の脳波・目の動き・心電図・呼吸・動脈血酸素飽和度を同時に記録するポリソムノグラフィーによって診断される。

パーキンソン病・Lewy小体型認知症などの疾患では脳に変性があることによってREM睡眠時の運動指令の調節が上手く働かずにREM睡眠行動障害が起こることがある。

高齢男性に多く、本人と配偶者のどちらも怪我をしないためにも寝室環境の調整が必要となる。

ベンゾジアゼピン系薬であるクロナゼパムで治療する。

悪夢障害

「悪夢で目が覚める」ことによる睡眠障害である。患者は悪夢の内容を目が覚めてから思い出すことができる。小児に多い。PTSDの患者は悪夢を見やすく、悪夢による睡眠障害が特徴である。悪夢によって「夢内容の行動化」をするようであればREM睡眠行動障害と診断する。

ノンレム睡眠からの覚醒障害(ノンレムパラソムニア)

通常、眠りから覚醒する際には浅い眠りであるレム睡眠を経て覚醒する。しかし、子供は眠りの機構が十分に発達していないので、ノンレム睡眠中の深い眠りであるのにも関わらずに脳が興奮して一気に覚醒に向かってしまうことがある。このときに部分的覚醒状態となってしまうことによって夜驚症や夢中遊行症が起こる。夜驚症や夢中遊行症は典型的には入眠後2~3時間で出現することが多い。

夜驚症は3~6歳くらいの子供によく見られて、夢中遊行症はそれよりも年長の子供によく見られる。多くの患者は成長に伴って自然に治るので、夢中遊行症で歩き回って怪我をしたりしない限りは治療は不要である。

夜驚症

突如として起き上がり恐怖の叫び声で始まるパニック状態となる。患者は眼を見開いているが部分的覚醒状態であるので声をかけても反応はない。また、患者は次の日に目を覚ましても夜の出来事を覚えていない。

夢中遊行症

睡眠中に突如としてベッドから起き上がって歩き回るというエピソードを繰り返す。患者は次の日に目を覚ましても睡眠中に歩き回ったことを覚えていない。

アカシジアとむずむず脚症候群の鑑別

両者ともに症状が下肢を動かすと改善するなどといった類似点が多いので混同されやすい。むずむず脚症候群は主に症状が夜間の就寝時に発現するために入眠困難が生じるという特徴があるのに対して、アカシジアは時間帯に関係なく日中でも座位などでじっとしていると症状が増強するという特徴がある。

アカシジア(着座不能症)

主にドパミン受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬(ドパミン遮断薬)による錐体外路系の副作用として知られる。

具体的には静座不能の症状(ジッとしていると下肢に不快感が生じるのでジッとしていることができず、ウロウロ歩き回ってしまう)が出る。

むずむず脚症候群

特に夕方から夜間にかけて「むずむずする」・「虫が這う」と表現されるような不快感が下肢に出現することで入眠困難をきたすことを特徴とする病態を指す。

入眠後に足首関節・膝関節が周期的にピクンと動いてしまうという不随意運動である周期性四肢運動を約80%の患者に認める。

周期性四肢運動が主体となる睡眠障害は周期性四肢運動障害に分類される。

むずむず脚症候群の原因

ドパミン不足が疾患の原因であるとされており、プラミペキソールなどのドパミン作動薬(ドパミン受容体作動薬)で治療する。

ドパミン生合成の過程で鉄が関与するので、鉄不足はドパミン不足を引き起こしてむずむず脚症候群の原因となる。

ドパミン不足となっているパーキンソン病や鉄不足となっている鉄欠乏性貧血・妊娠中・尿毒症の症状が出ているレベルであり透析を行なっている腎不全でむずむず脚症候群は合併する。

妊娠中

妊娠中は月経が無くなるので鉄排泄量が減少するものの、胎児を発育させるために鉄必要量が増加して鉄欠乏性貧血となることがある。

尿毒症

尿毒症の症状が出てくるレベルの慢性腎臓病(腎不全)では透析が必要となってくる。このレベルの末期の腎不全では慢性炎症によって鉄代謝に異常が生じて鉄不足になり、むずむず脚症候群が生じることがある。

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