児童の精神疾患総論

精神科

児童の精神疾患

自閉症スペクトラム障害(ASD)

かつて自閉症やAsperger症候群は両親の育て方に原因があるのではないかという考え方が主流となっていたが間違いであることが判明して、現在では養育は関係せず先天的な影響によるものだと考えられている。

関連する概念の歴史的な流れ

①自閉症が定義された。
②自閉症の特徴を持つが精神発達遅延を伴わない症例が報告されて、これはAsperger症候群と定義された。
③自閉症とAsperger症候群の上位概念として広汎性発達障害が定義された。かつては広汎性発達障害が精神発達遅延の有無によって自閉症とAsperger症候群に分類されていたのである。
④近年、自閉症とAsperger症候群を広汎性発達障害から2つに分類しないで同じスペクトラム(連続上)で捉えようという考え方から自閉症スペクトラム障害という概念が生まれ、自閉症とAsperger症候群は自閉症スペクトラム障害として統一された。

自閉症

IQ70以下であり精神遅滞と言語発達の遅れを伴う。

精神(発達)遅滞=知的(発達)障害

知的能力や社会適応機能によって判断され、知能指数(IQ)70以下で軽度~最重度に分類される。

Asperger症候群

自閉症の特徴を持つが、IQが70よりも上であり精神遅滞と言語発達の遅れを伴わない。

自閉症スペクトラム障害の症状

自閉症スペクトラム障害は男児に多く、特徴的な症状は3歳頃には出揃う。

言語・コミュニケーション障害

他人の気持ちや意図を汲み取るのが苦手であり、他人に「心」があって自分に対して関心を抱いているということすら認知しにくい。

反響言語(オウム返し)

例えばみかんが欲しいときに「みかん欲しい?」と言ってしまう。これは「みかん欲しい?」と母親に聞かれた後にみかんをもらえた経験があると、自分がみかんを欲しい時には同じく「みかん欲しい?」と言えばいいのかと認識してしまうためである。イントネーションも語尾が上がった疑問形のままとなる。

コミュニケーションが困難

かつてAsperger症候群に分類されていたレベルの子供は知的発達・言語発達に遅れがないので、言葉を習得して話すことができる。
しかし、Asperger症候群の子供は相手の感情を読み取ることに困難を抱えるので、相互的な言葉のやり取りができず人見知りをせずに一方的に話すという形になる。

親との関係性

親と情緒的な結びつきを持たないので、用が無ければ一緒にいようと思わず離れていても平気である。このために後追いはしない。また、強い関心を親に持っていないので呼ばれても振り向かなかったり、視線を合わしてあえて注目して顔を見ることもない。

他の児童との関係性

他の児童に興味を示さず、一人遊びを好む。ごっこ遊びは好まない。ごっこ遊びは子供の想像力や社会性を育てる遊びとなるが、自閉症スペクトラム障害の子供は他の児童と協調してごっこ遊びを行うのが困難であったりごっこ遊びに必要となる想像力が欠けているためである。

興味の限局

例えば、電車の図鑑に熱中し過ぎて夢中になってしまうというような状態になる。

常同的・反復的行動

例えば、体を前後に揺らしたり回転する。また、回転椅子を回し続けたりする。

こだわりが強い

偏食傾向があり好き嫌いが激しい。

日常の習慣が変更されることに強い抵抗を示す。

聴覚が過敏であったり、触覚が過敏であったりする感覚過敏を認める。触覚が過敏であるので、チクチクした服を着ることが出来なかったりする。

注意欠陥多動性障害(ADHD)

生まれつき脳内における報酬系がドパミンとノルアドレナリン不足によって障害されることで「遅延報酬を待てずに衝動的に代替報酬を選択する」・「報酬を得るまでの主観的な時間を短縮させるために、注意を他のものに逸らしたり気を紛らすための代替行為を行う」ようになってしまい衝動性・多動性・不注意(ケアレスミスが多い)といった症状が出る。

疫学

文部科学省の定義では7歳前から、DSM-5の定義では12歳前から症状が出るとされている。児童期(学童期:小学校在学期間)に問題が明らかになると覚えておけばよい。また、女性よりも男性に多い。多動は成長につれて軽快することが多いが、不注意は成人となっても残存することが多い。

治療

中枢神経刺激薬であるメチルフェニデートは報酬系におけるドパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用で報酬系の強化を行うことによってADHDを治療する。

学校での対応

教室の後ろになればなるほどその前の光景がADHDの子供にとっては大きな刺激となってしまう。気が散らないように最前列中央に座らせるべきである。

忘れ物をしたりしても病気の特性によるものであり本人に非はないので、自尊心を傷つけないためにも無闇に叱ってはいけない。

授業中に小休止の時間を設定したりすることによって、集中可能な持続時間を考慮して課題に取り組ませる。飽きさせないことが重要である。

ADHD児は知的障害を伴わないが、学習障害を合併することは多い。

学習障害

全般的な知的発達の遅れはないが、読んだり書いたり計算することなどに対して習得と使用に著しい困難を示す状態を指す。

脳内神経系の何らかの機能障害によるものであるので、本人のやる気などは関係しない。このため叱ったりしてはいけない。

Tourette症候群

チックが1年以上持続する場合に診断される疾患である。幼児期から発症することが多く、男児に多い。10歳代後半になると症状は軽減していく。強迫性障害や注意欠陥多動性障害や自閉スペクトラム障害を合併しやすい。

チック

本人が意図せずに突然出現する、素早く繰り返される運動又は音声を指す。

運動チックでは顔面・首・肩などの筋が半随意に収縮することによりまばたきや首振りをしてしまう。

音声チックでは「あー、うー、オッ」という声を出したり、汚い言葉や卑猥な言葉を発してしまう。

チックはストレスがかかったときなどで症状の憎悪をみる。

チックは睡眠中にはほぼ消失するのが特徴である。

チックの前に前駆衝動が伴うことがある。このチックを行いたいという衝動は短時間なら自分で抑えて制御することができるが、最終的には抑えることはできない。

病態

ドパミン神経の発達遅延でドパミンが不足することによってドパミン受容体に過感受性が生じ、これによってチックという不随意運動が起こると推定されている。Tourette症候群が成人までには症状が軽快するのはドパミン神経の発達が追いついてくるからではないかと考えられている。また、セロトニン神経の発達異常を同時に伴うことも多く、これによって強迫性障害の合併をすることが多い。

治療

チックの原因はドパミン受容体の過感受性であるので、かつてはよくドパミン受容体遮断薬であるハロペリドール(定型抗精神病薬)で治療されていた。最近では錐体外路症状の副作用が弱いリスペリドン(非定型抗精神病薬)で治療することが多い。病態は異なるが、治療は統合失調症に似ているので参考にすると良い。

強迫性障害との関係性

チックにおける前駆衝動は強迫性障害における強迫観念に似ており、実際に強迫性障害を合併していることも多い。しかし、強迫性障害は強迫観念によって生じた不安を取り除くために強迫行為を行なってしまう病態を指すが、Tourette症候群におけるチックの前駆衝動は「チックを行いたい」という衝動でありチックは不安を取り除くために行うものではないという違いがある。

選択緘黙(場面緘黙)

言語理解の障害がなく聴力も正常であるのにも関わらず、幼稚園などの社会的場面で言葉を発さなくなるのが特徴である。原因不明だが社交不安障害や回避性パーソナリティ障害を合併していることが多く、コミュニケーションに対する不安によって引き起こされると考えられている。

疫学

5歳未満で発症することが多く、女児に多い。家族の前では流暢に話せるので、幼児期に幼稚園での生活から症状に気付かれることが多い。成長と共に改善することが多いが、慢性化すると成人になっても持続してしまう。

治療

治療は認知行動療法によって「不安」を取り除くことによって行う。
発声に関しての障害ではないので、発声練習による治療は意味をなさない。

注意すべき点

選択緘黙は「選択」や「自発的な意思」によるものではないことが明らかになっており、「選択してあえて黙っている」という状態は別の病態となることに注意する。

「選択してあえて黙っている」という状態が慢性的に確認できる場合には「過敏型」の自己愛性パーソナリティ障害を鑑別に挙げるべきかもしれない。

夜尿症(遺尿症)

5歳以上になってもおねしょを頻繁にしてしまう場合に診断される。

子供の性格や親の育て方に問題があるわけではなく、患者が睡眠中に膀胱がいっぱいになっても尿意で目が覚めないという覚醒障害をもつことが疾患の基礎にある。

このため、患者がおねしょをしたとしても自尊心を傷つけないために叱ってはいけない。

夜尿症の治療法

生活指導

①水分は昼過ぎまでに多めに摂らせて、夕方以降になるべく水分を摂取しないようにする。

②睡眠中の寒さや冷えから身体を守る。

寒いと汗や水蒸気として体外に出る水分量が減るので尿量が増える。また、寒さ自体が膀胱を刺激する。

③就寝前に完全に排尿させる。

④夜間睡眠中に決めた時間に起こして無理矢理に中途覚醒させて排尿させてはいけない。

抗利尿ホルモン分泌が低下したり膀胱が小さくなるので、夜尿症が悪化するため。

夜尿アラーム療法

パンツにセンサーを取り付けて、尿でパンツが濡れるとアラームが鳴って子供を起こしてトイレで排尿させる仕組みとなっている。

夜尿症でむやみに夜に起こすのは逆効果であるとされているが、膀胱が尿で充満した状態で起こすのは効果があるとされており、欧米では第一選択として好んで用いられる。

薬物治療

デスモプレシン(抗利尿ホルモン)

三環系抗うつ薬

詳しい作用機序は不明だが、三環系抗うつ薬の抗コリン作用による尿閉の副作用が夜尿症に有効である。

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