依存性物質総論

精神科

依存性物質

精神依存

精神依存とは精神的に薬が欲しくて欲しくてたまらないという考えに取りつかれることを指す。精神依存のみを形成するのは大麻とコカインである。

耐性

耐性とは長期間の薬物使用で身体が薬物に対して順応してしまうことによって、同じ効果を得るためにはより多くの用量が必要になってくることを指す。精神依存・耐性を形成するのは有機溶剤(シンナー)とLSD(幻覚剤)と覚醒剤=精神刺激薬(アンフェタミン類・メタンフェタミン類)である。

覚醒剤精神病

まず覚醒剤の初期の使用において、覚醒剤は多幸感をもたらすため精神依存を生じさせることに加えて、耐性を形成させるので使用量がどんどん増加する。

そして覚醒剤を慢性的に連用するようになると、脳内ドパミン神経系が変性してしまうことで統合失調症のような状態となり幻覚・妄想が出現する。いったんこの状態になってしまうと、しばらく覚醒剤から離れていたとしても飲酒や少量の再使用がきっかけとなって統合失調症様の妄想・幻覚が出現するという「フラッシュバック現象」が起こる。このように脳内ドパミン神経系が変性してしまうことで統合失調症様の幻覚・妄想が容易に起こりやすくなった状態を感受性が逆に上がった状態として捉えて「逆耐性現象」と呼ぶ。

覚醒剤精神病に対しては抗精神病薬を使用する。

身体依存

長期間の薬物使用で身体が薬物に対して順応してしまうと、身体にとっては薬物が投与されている状態が通常となってしまい薬物が投与されていない状態が異常となってしまう。これによって、薬物が投与されないと離脱症状と呼ばれる身体症状が出現してしまう。

オピオイド(モルヒネ=アヘン・ヘロイン)とバルビツール酸系薬(フェノバルビタール)とアルコールとベンゾジアゼピン系薬とニコチンが精神依存・耐性・身体依存の全てを形成する。「ル」を含むものは精神依存・耐性・身体依存の全てを形成するという覚え方は有名である。

オピオイドは最強の依存性を持ち、離脱症状は散瞳である。

ニコチンの離脱症状は食欲亢進(過食)である。

飲酒について

日本においてアルコール消費量は減少傾向を示している。

飲酒開始年齢が早いほどアルコール依存症になりやすく脳・肝臓などの臓器に悪影響を与えやすいことが分かっているので、法律は20歳未満の飲酒を禁止している。

適度な飲酒の量は純アルコールで1日平均20gとされている。適度な飲酒は死亡リスクを下げることが明らかとなっている。

女性は男性に比べて小柄であるので体内血液量が少なく肝臓も小さい。このためにアルコール血中濃度が高くなりやすいので、臓器障害が起きやすくアルコール依存症になりやすい。

虚血性心疾患・脳梗塞・Ⅱ型糖尿病は少量飲酒でリスクが下がって、大量飲酒でリスクが上がるJカーブ型をとる。

肝臓におけるアルコール代謝

アルコール(エタノール)はまずアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに代謝される。そして、アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸→水+二酸化炭素に代謝されて体外に排出される。

アセトアルデヒドは体内にとって毒であり、悪心嘔吐・顔面紅潮・頭痛を引き起こす。嫌酒薬とはアルデヒド脱水素酵素を阻害することで敢えてアルデヒドが体外に排出されづらくして酒嫌いにすることを目的として投与される。

また、お酒が弱い人は遺伝的にアルデヒド脱水素酵素の働きが弱いので、アセトアルデヒトの代謝が遅い。このため、訓練しても飲めるようにはならない。

アルコール依存症

アルコール依存症は急性アルコール中毒(酩酊)・アルコール離脱せん妄・アルコール幻覚症・Wernicke-Korsakoff症候群を引き起こす。

スクリーニング

CAGE質問票を用いたアルコール依存症スクリーニングテストによってスクリーニングをする。

①飲酒を控えて飲酒量を減らさなければいけないと感じたことがあるか

②他人から飲酒を控えるように注意されたことがあるか

③自分の飲酒に対して後悔したり罪悪感を感じたことがあるか

④朝に迎え酒をしなければいけなかったことはあるか

酩酊

酩酊はまず単純酩酊と異常酩酊に分けられる。

単純酩酊

単純酩酊とは飲酒量に比例して「陽気で気が大きくなる→血中濃度0.1%以上でふらついて何度も同じことを喋る→意識が消失する」という経過を辿る一般的な酩酊を指す。

異常酩酊

異常酩酊とは「酩酊経過途中で突然に興奮状態が出現して大声を出したりする」といった酩酊を指す。一般的な酩酊とは質が異なることから区別される。

異常酩酊はさらに複雑酩酊と病的酩酊に分けられる。

複雑酩酊

複雑酩酊とはいわゆる「酒乱」と呼ばれる状態になることであり、些細なことで怒ったりセクハラをしたりする。複雑酩酊の行動は了解可能である。

病的酩酊

病的酩酊とは遺伝的にアルコールに対して脳が脆弱性を示すなどの素因を持つ人が酒を飲んだ後に急激な意識障害や幻覚妄想による了解不能な言動をする状態を指す。病的酩酊の状態にした行為の追想は不可能であり、責任無能力で無罪となる。

アルコール幻覚症

意識がはっきりしているのにも関わらず幻聴が生じて被害妄想をしたりする。意識障害を認めないのがアルコール離脱せん妄と決定的に異なる点であり区別される。

アルコール離脱せん妄についてはせん妄のまとめで言及している。

Wernicke-Korsakoff症候群

典型的にはアルコール依存症によってビタミンB1が不足したことでWernicke脳症が起きて、その後に後遺症としてKorsakoff症候群が生じたものを合わせてWernicke-Korsakoff症候群と呼んでいる。

アルコール依存症や精白米(玄米からビタミンB1が豊富なヌカを取り除いたもの)の偏食、スナック菓子のみを食べるといった偏食などによってビタミンB1が不足する。

アルコール依存症の人ではアルコールによってビタミン(特にビタミンB1:チアミン)の吸収が悪くなる。

また、そもそもアルコール依存症の人は食事を摂らないことが多くビタミン摂取量(特にビタミンB1:チアミン)自体が不足する傾向にある。

ビタミンB1はピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素であり、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を制御しているためピルビン酸をアセチルCoAに変換させる際に必須因子となる。

ピルビン酸デヒドロゲナーゼとはピルビン酸をアセチルCoAに変換させることによって解糖系とクエン酸回路をつなげている酵素である。

ビタミンB1が不足するとエネルギー産生過程が解糖系で止まるのでエネルギーが不足する。そして、エネルギー不足は脳・神経・心臓に障害を引き起こして脚気(多発神経炎・心不全・浮腫)やWernicke脳症(意識障害・運動失調・眼球運動麻痺)を発症させる。

Wernicke脳症の後遺症として、側頭葉が萎縮して海馬にダメージが加わったことによって記銘障害・失見当識が起こる。患者は自分が思い出せないことを認めようとせず、無意識のうちに作話をして帳尻を合わせようとする。このような状態をKorsakoff症候群として、臨床的評価によって診断する。

参考文献

Wernicke脳症:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/88/5/88_5_762/_pdf

健康な生活を送るために:https://www8.cao.go.jp/koutu/chou-ken/h21/pdf/ref/408-413.pdf

アルコール依存症対応マニュアル:http://www.kagoshima.med.or.jp/people/osirase/seisinn/aru.PDF

急性アルコール中毒:https://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/about/kakuron/5_alcohol/alchol_pdf/alchol_02.pdf

依存性薬物の行動精神薬理学:https://plaza.umin.ac.jp/JPS1927/fpj/open_class/54th_hokubu/suzuki.pdf

覚醒剤逆耐性の機序:https://researchmap.jp/read0047987/published_papers/23901919/attachment_file.pdf

断酒しているアルコール依存症者に対する一般住民の態度改善に関する研究:https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/35717/20141016210032351327/k6297_3.pdf

まとめのpdf

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