血管炎
血管炎とは様々な原因によって「血管に炎症が起きる」ことで多彩な症状が生じる疾患である。
血管炎の多くは免疫異常やアレルギーをベースにして発症するが、原因不明で発症することも多い。
血管炎は侵される血管の太さによって大型血管炎・中型血管炎・小型血管炎に分類される。
血管は全身に張り巡らされているので血管炎では全身に多彩な症状が出現する。全身性の症状では発熱・体重減少・末梢神経症状(しびれ感など)・関節痛・皮膚症状(紫斑・網状皮斑など)などの症状が出る。臓器別では腎臓・肺が侵されて腎症状・肺症状が出現することが多い。
血管炎は「発症原因が不明であることが多い+似たような多彩な症状が出る」ので「理解がしにくい+区別がしにくい」が、それぞれの血管炎の特徴的な症状や所見を覚えて「この特徴的な症状や所見が出ているからこの血管炎だ!」と区別できるようになれば良いと思われる。
大型血管炎
大型血管炎は主に大動脈と最初に枝分かれした動脈および静脈が侵される血管炎を指し、高安動脈炎(大動脈炎症候群)・巨細胞性動脈炎が属する。
高安動脈炎(大動脈炎症候群)
「思春期から若年成人女性に好発する(108I13)」原因不明の「大動脈およびその分枝に炎症をきたす(115A10)」疾患である。
血管の狭窄・閉塞によって血圧の左右差や橈骨動脈の触知に左右差(橈骨動脈脈拍消失)が出ることが多く、かつては「脈なし病」と呼ばれていた。
頸部で血管雑音を聴取することが多い。
合併症に関してだが、大動脈炎症候群により腎動脈が狭窄して腎血管性高血圧となることがある。この場合、腎動脈の狭窄によって上腹部に血管性雑音を聴取する。また、アルドステロン値と血漿レニン活性(PRA)は上昇する。
高安動脈炎に関する医師国家試験問題
105D26:26歳の女性。会社の定期健康診断で高血圧を指摘され来院した。脈拍72/分、整。血圧(右上肢)176/98mmHg。心音に異常を認めない。上腹部に血管性雑音を聴取する。血液所見:赤血球450万,Hb 13.4g/dL,Ht 42%,白血球4200,血小板24万。血液生化学所見:尿素窒素16mg/dL、クレアチニン1.0mg/dL、総コレステロール160mg/dL,Na142mEq/L,K3.0mEq/L,Cl98mEq/L、アルドステロン60ng/dL(基準5~10)血漿レニン活性〈PRA〉16ng/mL/時間(基準1.2~2.5)CRP 3.8mg/dL。
最も考えられるのはどれか。
出典:第105回医師国家試験問題
- Liddle症候群
- Bartter症候群
- 大動脈炎症候群
- 甲状腺機能亢進症
- 原発性アルドステロン症
解答:3.大動脈炎症候群
解説:100F53とほぼ同一問題である。
1.←Liddle症候群では遠位尿細管・集合管に大量に発現してNa再吸収に重要な役割を果たしているアミロライド感受性上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)の活性が亢進することで、Na再吸収・水再吸収・K排泄が促進されて高血圧・低K血症が引き起こされる。原発性アルドステロン症と類似の臨床症状を呈するが、血漿レニン活性とアルドステロンがともに低値となるのがポイントである。
2.←Bartter症候群とGitelman症候群は常染色体劣性遺伝の先天性尿細管機能障害によるNaClの再吸収障害によって「軽度の体液量減少→高レニン血症・高アルドステロン症」となる疾患である。体液量減少となっているので高アルドステロン症となっても高血圧にはならないが、低カリウム血症や代謝性アルカローシスとなる。
3.← 大動脈炎症候群(高安動脈炎)により腎動脈が狭窄して腎血管性高血圧となることがある。この場合、腎動脈の狭窄によって上腹部に血管性雑音を聴取する。また、アルドステロン値と血漿レニン活性(PRA)は上昇する。
4.←甲状腺ホルモンはレニンの合成・分泌を促進するので、甲状腺機能亢進症ではレニン活性が上昇する。レニン活性上昇が認められるとはいっても、甲状腺機能亢進症ではMerseburg三徴(頻脈・甲状腺腫・眼球突出)などの症状がみられるはずであるが問題文に記載がないので甲状腺機能亢進症の可能性は低いと考えられる。
5.←原発性アルドステロン症は副腎皮質で過形成・腺腫・癌による自律的なアルドステロン過剰産生が生じることで引き起こされる。若年性高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスといった症状が出る。原発性アルドステロン症では血漿アルドステロンは高値となるが、ネガティブフィードバックによって血漿レニン活性は低値となる。
115A10:わが国における高安動脈炎について正しいのはどれか。
出典:第115回医師国家試験問題
- 中年男性に多い。
- 喫煙との関連性が高い。
- 水晶体偏位を合併しやすい。
- 浅側頭動脈の炎症を合併しやすい。
- 大動脈およびその分枝に病変をきたしやすい。
解答:5. 大動脈およびその分枝に病変をきたしやすい。
解説:1.←高安動脈炎は「思春期から若年成人女性に好発する」ことが108I13で問われている。
2.←喫煙との関連性は明らかになっていない。
3.←水晶体偏位をきたす疾患としてはMarfan症候群とホモシスチン尿症を押さえておく。
ホモシスチン尿症はメチオニンの代謝異常によってメチオニンが高値となる常染色体劣性遺伝疾患であり新生児マススクリーニングの対象疾患である。Marfan症候群と類似の症状を呈することが特徴であり水晶体編位も認められる。
新生児スクリーニングとは予後不良な先天性の代謝異常症や内分泌疾患を早期発見して重症化を予防するための検査であり、血液乾燥濾紙を用いて生後4〜7日に行われる。
従来はホモシスチン尿症・ガラクトース血症・フェニルケトン尿症・メープルシロップ尿症・先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)・先天性副腎過形成症(知的障害の原因とならない)の6疾患のみであったが、現在ではタンデムマス法の導入によって20疾患が対象となっている。
4.←浅側頭動脈の炎症を合併しやすいのは巨細胞性動脈炎である。
5.←大動脈およびその分枝に病変をきたしやすいのは大型血管炎であり、高安動脈炎と巨細胞性動脈炎が当てはまる。
巨細胞性動脈炎
大動脈とその主要分枝に炎症が起こり狭窄・閉塞・拡張をきたす大型血管炎である。
特に浅側頭動脈に炎症が起こることが多いのでかつては側頭動脈炎と呼称されていたが、現在では「組織学的に多核巨細胞を伴う肉芽種性炎症を認める」ことから巨細胞性動脈炎と呼ばれている。
片側性頭痛・間欠性顎跛行(虚血性筋痛が顎筋に起こるので、食べ物を噛んでいると顎が痛くなる)・視力低下(血管炎による眼動脈の血流低下・消失によって虚血性視神経症が起こり複視・視野障害となる)といった症状が認められる。
視力低下は失明につながるため早急に対応すべき病態であり、「目は見えにくくないですか?(108I72)」と患者に聞いたり「眼底検査をする(105B46)」ことが早急に求められる。
触診では浅側頭動脈を索状に触れて圧痛を伴う。
リウマチ性多発筋痛症を合併することが多く、どちらの疾患も副腎皮質ステロイドが著効する。
合併症:リウマチ性多発筋痛症
上腕・肩・大腿部の筋肉痛を主訴とする原因不明の炎症性疾患であり、男女比は1:2で50歳以上の中高年に多く発症する。
炎症性疾患なので血液検査で赤沈促進・CRP値上昇を認める。
リウマチ性多発筋痛症には特異的な検査所見がないので、「自己抗体(リウマトイド因子・抗CCP抗体など)の陰性」や「筋肉痛を訴えるが筋破壊所見はないので筋原性酵素である血清CK(CPK)とアルドラーゼ(ALD)の上昇がみられない」といった情報などから除外診断をした上で確定診断をする。
治療では少量の副腎皮質ステロイドが著効する。合併症として巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)が有名であり、医師国家試験ではしばしば2つを絡めた出題がなされる。
巨細胞性動脈炎とリウマチ性多発筋痛症に関する医師国家試験問題
105B46:78歳の男性.2週前からの頭痛と微熱とを主訴に来院した.1週前から食べ物を噛んでいると顎が痛くなるので、柔らかいものを食べているという.体温37.5℃。呼吸数18/分。脈拍80/分、整。血圧138/88mmHg.右側頭部に圧痛を伴う索状物を触知する.
この患者で留意すべき診察部位はどれか.
出典:第105回医師国家試験問題
- 眼底
- 鼓膜
- 鼻腔
- 舌
- 咽頭
解答:1.眼底
解説:症状から巨細胞性動脈炎だということはすぐに分かるが、その上で留意すべき診察部位はどれかということがポイントである。 巨細胞性動脈炎の症状の中でも視力低下は失明につながるため早急に対応すべき病態であり、「目は見えにくくないですか?(108I72)」と患者に聞いたり「眼底検査をする(105B46)」ことが早急に求められる。 よって、眼底に留意して診察すべきである。鼓膜・鼻腔・舌・咽頭に異常は認められない。
108I72:79歳の女性。両上肢の痛みとこわばりを主訴に来院した。2週前から両上肢の痛みとこわばりが出現した。1週前から頭痛と夕方から夜にかけての38℃の発熱とを自覚した。起床時にはこわばりがひどく、寝返りができない。2週間で体重が1.5kg減少した。体温37.9℃。脈拍84/分、整。血圧142/80mmHg。眼瞼結膜は貧血様である。両側の上腕に圧痛を認める。関節に腫脹と圧痛とを認めない。赤沈102mm/1時間。血液所見:赤血球301万、Hb 9.6g/dL、Ht 29%、白血球9,800、血小板47万。血液生化学所見:総蛋白5.9g/dL、AST 29IU/L、ALT 28IU/L、LD 321IU/L(基準176~353)、CK 38IU/L(基準30~140)、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン0.7mg/dL、Na 138mEq/L、K 4.9mEq/L、Cl 100mEq/L。
早急に対応すべき病態の判断に最も重要な質問はどれか。
出典:第108回医師国家試験問題
- 「よく眠れますか」
- 「腰は痛いですか」
- 「寝汗はかきますか」
- 「目は見えにくくないですか」
- 「太ももに痛みはありますか」
解答:4.「目は見えにくくないですか」
解説:「起床時にはこわばりがひどい」という情報などから関節リウマチを想起してしまうかもしれないが、関節リウマチでは少なくとも1つ以上の明らかな腫脹関節(滑膜炎)があることが診断基準に当てはめるための必須条件であるので、関節に腫脹と圧痛を認めない今回のケースでは関節リウマチは否定される。
「上肢の痛み」+「血清CKが正常値」ということからリウマチ性多発筋痛症を想起すべきである。
リウマチ性多発筋痛症には巨細胞性動脈炎が合併しやすく、巨細胞性動脈炎の症状の中では失明につながる病態である視力低下に早急に対応すべきであるので「目は見えにくくないですか」と患者に聞くべきである。
他の質問は早急に対応すべき病態にはつながらない。
112A72:82歳の女性。筋肉痛を主訴に来院した。2週間前の朝に、急に頸部、肩甲部、 腰部、殿部および大腿部に筋肉痛とこわばりを自覚し、起き上がりが困難になり、症状が持続するため受診した。意識は清明。体温 37.8 ℃。脈拍 84/分、整。血圧 148/86 mmHg。
尿所見:蛋白(-)、潜血(-)。赤沈 110 mm/1時間。血液所見: 赤血球 312 万、Hb 9.8 g/dL、Ht 30 %、白血球 10,200、血小板 43 万。血液生化学所見 : 総蛋白 5.9 g/dL、AST 29 U/L、ALT 28 U/L、LD 321 U/L (基準 176〜353)、CK 38 U/L(基準 30〜140)、尿素窒素 18 mg/dL、クレアチニン0.7 mg/dL。免疫血清学所見:CRP 15 mg/dL、リウマトイド因子(RF)陰性、抗核抗体陰性。
この患者で注意すべき合併症を示唆する症状はどれか。2つ選べ。
出典:第112回医師国家試験問題
- 複視
- 盗汗
- 頭痛
- 網状皮斑
- Raynaud現象
解答:1,3
解説:「筋肉痛」+「自己抗体陰性」+「CK正常値」という情報などからリウマチ性多発筋痛症を想起したい。リウマチ性多発筋痛症に合併する巨細胞性動脈炎を示唆する症状を選べばよい。
1.←巨細胞性動脈炎では複視・視力低下などの視力障害が出る。視力障害は失明につながるので早急に対応すべき病態である。
2.←悪性リンパ腫は進行の程度によってⅠ~Ⅳ期の病期に分類される。また、それぞれの病期はB症状の有無によってA(症状なし)またはB(症状あり)に分類される。B症状は①発熱(38℃以上の原因不明の発熱)②盗汗(寝具を替えなければならないほどのずぶ濡れになる寝汗)③体重減少(診断前の6ヵ月以内に通常体重の10%を超す原因不明の体重減少)である。リウマチ性多発筋痛症に悪性リンパ腫は合併しない。
3.←巨細胞性動脈炎では片側頭痛となる。
4.←網状皮斑(リベドー:livedo)とは皮膚に赤色や紫色の網目模様がみられる状態を指す。抗リン脂質抗体症候群(抗カルジオリピン抗体陽性)・コレステロール塞栓症・クリオグロビン血症・結節性多発動脈炎・全身性エリテマトーデスなどで認められることが多いが、巨細胞性動脈炎では網状皮斑を認めない。
5.←Raynaud現象とは寒冷刺激で誘発される血管攣縮によって手指などの末梢の循環血液量が低下することで引き起こされる指先の色が突然変化する現象である。膠原病などで認められるが、巨細胞性動脈炎では認められない。
中型血管炎
中型血管炎は主に臓器に入って最初に枝分かれした動脈および静脈が侵される血管炎を指し、結節性多発動脈炎・川崎病が属する。
結節性多発動脈炎
原因不明の中型血管炎を病態とする疾患である。
多発性単神経炎や網状皮斑を生じることが医師国家試験ではしばしば出題されている。
結節性多発動脈炎に関する医師国家試験問題
111I2:網状皮斑から疑うべきなのはどれか。
出典:第111回医師国家試験問題
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 結節性多発動脈炎
- サルコイドーシス
- 全身性アミロイドーシス
解答:3.結節性多発動脈炎
解説: 網状皮斑(リベドー:livedo)とは皮膚に赤色や紫色の網目模様がみられる状態を指す。 抗リン脂質抗体症候群(抗カルジオリピン抗体陽性)・コレステロール塞栓症・クリオグロビン血症・結節性多発動脈炎・全身性エリテマトーデスなどで認められることが多い 。結節性多発動脈炎は網状皮斑を認める。結節性多発動脈炎は多発性単神経炎や網状皮斑を生じることが医師国家試験ではしばしば出題されている。
川崎病
原因不明の中型血管炎を主病態とする疾患であり4歳以下の乳幼児に好発する。川崎病は細かいところも出題されるので、医師国家試験問題を解くためには川崎病の診断基準を覚えておくと良い。
[川崎病の診断基準(川崎病診断の手引きを参考に医師国家試験用)]
6つの主要症状のうち5症状以上を呈する場合、4つの主要症状しか認められなくても断層心エコーで冠動脈病変を呈する場合に川崎病と診断する。
川崎病に関する医師国家試験問題
111I38:救急外来で小児を診察した研修医から指導医への報告を次に示す。
研修医「2歳の女の子です。5日前から39℃の発熱が持続するため来院しました。2日前に自宅近くの診療所を受診し解熱薬を処方されています。呼吸数30/分、脈拍144/分で、診察所見としては咽頭発赤とイチゴ舌があり、体幹に発疹を認めることから溶連菌感染症を疑います」
指導医「溶連菌感染症は重要な鑑別疾患だね。でも川崎病の可能性はどうかな」
川崎病との鑑別診断のために追加して確認すべきなのはどれか。3つ選べ。
出典:第111回医師国家試験問題
- 眼球結膜充血
- 耳下腺の腫脹
- 頬粘膜の白斑
- 頸部リンパ節腫脹
- 手指の腫脹
解答:1,4,5
解説:川崎病の鑑別診断をするので、川崎病の診断基準に該当するものを選べばよい。
1.←川崎病の診断基準に含まれる。
2.←耳下腺の腫脹で想起されるのは流行性耳下腺炎である。
3.←頬粘膜の白斑で想起されるのは麻疹のKoplik斑である。
4.←溶連菌感染症の簡易的な基準に「前頸部リンパ節腫脹と圧痛を呈すること」が含まれている。このため、「頸部リンパ節腫脹」は溶連菌感染症と川崎病を区別するためにはあまり役には立たないかもしれない。しかし、川崎病を確定診断するためには適当であり役に立つ。
5.←川崎病の診断基準に含まれる「手足の硬性浮腫」とは押さえても凹まない「パンパン」になる浮腫であるので手指は腫脹する。他に手足はしもやけのような状態となり真っ赤になる。熱が下がって回復期になると指先から膜様にペロッとめくれて膜様落屑が生じる。
100A6:7ヵ月の乳児。発熱を主訴に来院した。5日前から発熱が続き、昨日から発疹が出現している。体温39.4℃。全身に紅斑を認め、手背と足背とが腫れている。指圧痕は残らない。両側眼球結膜は充血し、口唇は発赤している。心雑音はなく、呼吸音も正常である。腹部は平坦、軟。肝を右肋骨弓下に2cm触知する。脾は触知しない。血液所見:赤血球390万、Hb 11.5g/dL、Ht 38%、白血球15,600(桿状核好中球19%、分葉核好中球48%、好酸球1%、単球5%、リンパ球27%)、血小板41万。CRP 16mg/dL。1ヵ月前に接種したBCG接種部位の写真を次に示す。
まず投与するのはどれか。
出典:第100回医師国家試験問題
- 抗菌薬
- 利尿薬
- アスピリン
- イソニアジド
- 副腎皮質ステロイド薬
解答:3.アスピリン
解説:川崎病の治療に関する問題である。川崎病治療の目標は「急性期の強い炎症反応をできる限り早期に抑え込むことで、合併症である冠動脈瘤の発生頻度を最小限にする」ことである。そのため、アスピリン療法と免疫グロブリン療法(ガンマグロブリン療法)を併用して炎症を抑える標準的治療を行う。この標準的治療を行っても終了後24時間以内に解熱しない例が15~20%程度存在し、これを不応例とする。不応例の冠動脈瘤発生率は高い(予後は悪い)ので、不応例判定に使用される発熱が標準的治療効果判定に使用する所見となっている。
小型血管炎
小型血管炎は細動脈・細静脈・毛細血管が侵される血管炎を指し、ANCA関連血管炎・免疫複合体性小型血管炎が属する。
ANCA関連血管炎
ANCA関連血管炎は細小動静脈主体の壊死性血管炎であり、免疫複合体沈着に乏しくANCA陽性率が高いことを特徴とする血管炎を指し、顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群=アレルギー性肉芽腫性血管炎)が属する。
- ANCA関連血管炎
- Goodpasture症候群
- 溶血性尿毒症症候群
- コレステロール塞栓症
- 微小変化型ネフローゼ症候群
解答:1,2
解説:急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は「腎炎を示す尿所見を伴い数週間~数ヶ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群」であると定義されている。組織学的には糸球体の半月体形成が特徴である。
1.←ANCA関連血管炎のうち顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症が急速進行性糸球体腎炎を起こしやすい。
2.←Goodpasture症候群では抗GBM抗体が直接糸球体基底膜を傷害するⅡ型アレルギー反応によって急速進行性糸球体腎炎が引き起こされる。
3.←腸管出血性大腸菌感染症は腸管出血性大腸菌O157に汚染された井戸水や加熱不十分な牛肉を摂取することで引き起こされる。集団発生の形式をとることが多く3類感染症として指定されているので、確認した医師は直ちに保健所を通して知事に届け出なければならない。腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素:ベロトキシン(赤痢菌が産生する志賀毒素と同一だということが後に判明した)が腸管上皮細胞に作用して腹痛・水様性下痢・血便を引き起こす。血便が「出血性」の由来である。数%〜10%の頻度でベロ毒素が腎臓・脳に作用して溶血性尿毒症症候群・急性脳症(意識障害・痙攣など)を引き起こす。溶血性尿毒症症候群とはベロ毒素によって惹起される血栓性微小血管障害であり、血小板減少(血栓によって血小板が消費されるので出血時間が延長するが、PT・APTTは正常である)・溶血性貧血(血栓によって微小血管が狭くなり破砕赤血球が生じる血管内溶血が起こる)・急性腎機能障害(腎臓の微小血管に血栓ができることによる)の3主徴を呈する。
4.←コレステロール塞栓症ではコレステロールが腎臓の血管に詰まることで急性腎不全を呈する。
5.←臨床症候分類でネフローゼ症候群を呈して腎生検の光学顕微鏡所見で組織学的異常が認められないものを微小変化型ネフローゼ症候群としている。微小変化型ネフローゼ症候群は「①小児〜若年者で頻度が高い」「②光学顕微鏡下で組織学的異常が認められないが、電子顕微鏡下で糸球体上皮細胞の足突起の消失が認められる」「③selectivity index(IgG:分子量約15万のクリアランス÷トランスフェリン:分子量約8万のクリアランス)<0.2で高選択性」「④ステロイドに対する反応性が良い」という特徴を持つ。
顕微鏡的多発血管炎
MPO-ANCAが陽性となる原因不明の小型血管炎を主病態とする疾患である。
糸球体や肺胞の小型血管の障害によって腎障害・肺障害が起こりやすい。
腎障害に関して、組織学的には糸球体の半月体形成が特徴である急速進行性糸球体腎炎を引き起こす。
尿検査では、蛋白尿・尿潜血反応陽性・赤血球円柱・顆粒円柱が認められる。
肺障害に関して、間質性肺炎(fine crackles聴取)が起こり悪化すると肺胞出血(coarse crackles聴取)となる。
顕微鏡的多発血管炎に関する医師国家試験問題
108D33:76歳の女性。両下肢のしびれ感を主訴に来院した。5週前に両足先のしびれ感を自覚し、その後しびれ感は徐々に上行した。3週前から37℃台の発熱、10日前から両足に紫斑が出現した。5日前からは歩行困難を自覚したため受診した。体温37,2℃。脈拍76/分、整。血圧148/88 mmHg。眼瞼結膜は貧血様である。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。両側の膝下から足先までの痛覚と触覚の低下、両側の足の振動覚と位置覚の低下を認める。徒手筋力テストで右足関節の背屈は2、底屈は4、左足関節の背屈は3、底屈は4と低下している。両側の膝蓋腱反射とアキレス腱反射は消失している。病的反射はない。尿所見:蛋白2+、潜血2+、沈渣に赤血球円柱1~4 / 1視野。血液所見:赤血球318万、Hb 10.1 g/dL、Ht 31%、白血球9,980(分葉核好中球49%、好酸球5%、単球6%、リンパ球40%)、血小板21万。血液生化学所見:総蛋白7.4 g/dL、アルブミン3.2 g/dL、IgG 1,980 mg/dL(基準960~1,960)、IgA 297 mg/dL(基準110~410)、IgM 113 mg/dL(基準65~350)、AST 28 IU/L、ALT 16 IU/L、LD 177 IU/L(基準176~353)、CK 27 IU/L(基準30~140)、尿素窒素21 mg/dL、クレアチニン1.1 mg/dL、Na 135 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 98 mEq/L。CRP 2.9 mg/dL。下肢の写真を別に示す。
診断として考えられるのはどれか。
出典:第108回医師国家試験問題
- 老人性紫斑
- Goodpasture症候群
- 顕微鏡的多発血管炎
- 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
- アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)
解答:3.顕微鏡的多発血管炎
解説:顕微鏡的多発血管炎に関する問題では通常MPO-ANCAについて記載されていることが多いので悩むことが少ないが、今回の問題ではMPO-ANCAについて記載がない。そういう点では少し捻られた問題である。
「発熱」+「多発単神経炎によるしびれ感・筋力低下・異常感覚」から血管炎を想起したい。
左右対称性(体の両側でほぼ同じ領域にある)で多数の末梢神経が障害されるものを多発神経炎(多発神経障害)と呼び、左右非対称性(体の別々の領域にある)で通常は数本の末梢神経が障害されるものを多発単神経炎(多発性単神経障害)と呼ぶ。今回のケースのように多発単神経炎が多数の末梢神経で起こった場合は多発神経炎との区別が困難になる場合がある。
1.←老人性紫斑病とは加齢変化により血管支持組織が脆弱になり、本人が自覚しない程度の刺激でも容易に紫斑を好発する疾患を指す。皮膚も菲薄化しており、軽度の物理的刺激で裂創を形成する。血小板減少や凝固異常による紫斑ではなく、出血時間・APTT・PTは影響を受けない。また、多発性単神経炎といった神経障害は認めない。
2.3.←Goodpasture症候群の診断は「①肺出血②急速進行性糸球体腎炎③抗GBM抗体」が存在することでなされる。一方で顕微鏡的多発血管炎も急速進行性糸球体腎炎と肺障害を引き起こす。よって、Goodpasture症候群と顕微鏡的多発血管炎との鑑別が重要となる。抗GBM抗体・MPO-ANCAについて記載があったらすぐに分かるが今回は記載がない。そこで、顕微鏡的多発血管炎では皮疹・末梢神経障害・関節痛などの全身性血管炎に伴う症状が出るのに対して、Goodpasture症候群では全身性血管炎に伴う症状が出ないということから鑑別する。また、顕微鏡的多発血管炎の急速進行性糸球体腎炎では腎生検で免疫グロブリンの沈着を伴わないpauci-immune型の半月体形成腎炎となるのに対して、Goodpasture症候群の急速進行性糸球体腎炎では蛍光抗体法で糸球体係蹄壁に沿ってIgGの線状の沈着が認められることからも鑑別できる。
4.←巨細胞性動脈炎とは明らかに病態が異なる。
5.←アレルギー性肉芽腫性血管炎では「気管支喘息・好酸球上昇・IgE上昇・MPO-ANCA陽性」といったキーワードが期待されるが、今回の問題では記載がない。
多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)
発熱・体重減少などの全身症状とともに①上気道症状(鞍鼻・膿性鼻漏・中耳炎・眼球突出など)②肺症状(血痰など)③腎症状(急速進行性糸球体腎炎など)がみられ、典型的には①→②→③の順序で出現するPR3-ANCA(C-ANCA)が陽性となることが多い疾患である。
他のANCA関連血管炎と比較すると上気道症状が特徴的であり、上気道症状を主訴とする患者が多い。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群=アレルギー性肉芽腫性血管炎)
気管支喘息(喘鳴を伴う呼吸困難発作)・アレルギー性鼻炎が悪化した結果、末梢血好酸球増多を伴って小型血管炎を生じるという経過を辿る疾患である。
「気管支喘息・好酸球上昇・IgE上昇・MPO-ANCA陽性」というキーワードを押さえておけば医師国家試験問題は解けると思われる。
免疫複合体性小型血管炎
免疫複合体性小型血管炎は免疫複合体の血管壁への沈着と補体の活性化が病態形成に関与する血管炎を指し、IgA血管炎・クリオグロビン血症性血管炎・Goodpasture症候群などが属する。
IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病)
上気道感染などの何らかの原因によって産生されたIgAが小型血管炎を引き起こすという病態である。
発症2週間前の上気道炎などの先行感染を伴うことが多い。
症状では全身症状である疝痛性腹痛(間欠的で差し込むような腹痛)・関節痛が特徴的である。
また、糸球体メサンギウム領域にIgAが沈着するとIgA腎症のような形で紫斑病性腎炎(IgA血管炎に伴う腎炎を紫斑病性腎炎と呼ぶ)が引き起こされる。
IgA血管炎における紫斑(紫紅色の点状~斑状の皮下出血)はIgAが血管壁に付着して血管が炎症を起こして血管支持組織が脆弱化して生じたものである。つまり、血小板減少や凝固異常により紫斑が生じるわけではなく、「出血時間の延長・APTT・PT・血小板の減少」といった血液所見は認められない。
類似疾患:IgA腎症
IgAがメサンギウム領域に沈着することで主に血尿メインの慢性糸球体腎炎を引き起こす。
IgA腎症は「わが国の慢性糸球体腎炎の中で最も多い(90B60)」。
慢性糸球体腎炎とは糸球体の慢性的な炎症によって蛋白尿・血尿が長期間(少なくとも1年以上)持続するものを指す。血尿メインなので「ネフローゼ症候群をきたすことは無い」と言うことはできないものの、ネフローゼ症候群をきたすことは比較的少ない。
慢性で初期は無症状なので、健康診断で偶然に血尿・蛋白尿・赤血球円柱・変形赤血球を認めるなどの尿異常を指摘されて発覚することが多い。
一部の患者では上気道炎感染時に憎悪してコーラのような色の肉眼的血尿を認めて発覚することもある。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎でもコーラ色の肉眼的血尿を認めるが、溶連菌感染後急性糸球体腎炎は上気道感染2週間後ぐらいで急性に生じるのに対して、IgA腎症は上気道感染時に慢性のものが憎悪して生じるという違いがあることに注意する。
「高血圧・高度蛋白尿が腎機能低下の予測因子(リスク因子)となる(103D18)」ことはしばしば出題されている。
113A57:24歳の男性。血尿を主訴に来院した。これまで尿の異常を指摘されたことはなかった。4日前に咽頭痛と38℃の発熱があり、昨日から血尿が出現したため受診した。体温37.8℃、脈拍72/分、整.血圧120/78mmHg。口蓋扁桃の腫大を認める。顔面および下肢に浮腫を認めない。皮疹は認めない。尿所見:蛋白3+、潜血3+、沈渣は赤血球100以上/HPF。随時尿の尿蛋白/クレアチニン比2.0g/gクレアチニン(基準0.15未満)、血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL、アルブミン3.8g/dL、IgG 1,400mg/dL(基準960〜1,960)、IgA 450mg/dL(基準110〜420)、IgM 100mg/dL(基準65〜350)、CK 50U/L(基準30〜140)、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL。免疫血清学所見:抗核抗体陰性、CH50 30mg/dL(基準30〜40)、C3 88mg/dL(基準52〜112)、C4 20mg/dL(基準16〜51)、ASO 200単位(基準250以下)、MPO-ANCA陰性、PR3-ANCA陰性。
最も考えられるのはどれか。
出典:第113回医師国家試験問題
- IgA腎症
- 膜性腎症
- ANCA関連血管炎
- 微小変化型ネフローゼ症候群
- 溶連菌感染後急性糸球体腎炎
解答:1.IgA腎症
解説:1.←「4日前の咽頭痛と38℃の発熱」+「現在の37.8℃の発熱と口蓋扁桃腫大」から患者に上気道感染が4日前から継続していると考えられる。IgA腎症は一部の患者で上気道炎感染時に憎悪してコーラのような色の肉眼的血尿を認めて発覚することがあり、今回はそのようなケースであろう。
2.←ネフローゼ症候群を呈するもののうち、「光顕所見で糸球体基底膜のびまん性肥厚・spike形成を認めて、蛍光所見で糸球体係蹄壁に沿ってIgG・C3が顆粒状に沈着するもの」を膜性腎症とする。ネフローゼ症候群とは「①蛋白尿:3.5g/日以上(随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上の場合もこれに準ずる)②低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下」を同時に満たす場合に診断される。今回のケースはネフローゼ症候群の診断基準を満たしていないので膜性腎症の可能性は低い。また、膜性腎症は血尿を伴うことが少なく、典型的には「血尿を伴わない高齢者のネフローゼ症候群」で疑うべきである。
3.← MPO-ANCA陰性、PR3-ANCA陰性から考えにくい。
4.←今回のケースではネフローゼ症候群の診断基準を満たしていないので可能性は低い。
5.← 溶連菌感染後急性糸球体腎炎でもコーラ色の肉眼的血尿を認めるが、溶連菌感染後急性糸球体腎炎は上気道感染2週間後ぐらいで急性に生じるのに対して、IgA腎症は上気道感染時に慢性のものが憎悪して生じるという違いがあることに注意する。また、低補体血症ではないこととASO上昇が認められないことからも考えにくい。
Goodpasture症候群
血清中の抗GBM抗体(抗基底膜抗体)が糸球体構成成分(糸球体基底膜)・肺胞基底膜に沈着することによるⅡ型アレルギー反応で急速進行性糸球体腎炎・肺胞出血が引き起こされる疾患である。
肺胞出血によって血痰をきたしやすい疾患として知られており、患者の主訴が血痰ということも多い。
蛍光抗体法では糸球体基底膜が抗IgG抗体で線状(linear)に染色される。
「アレルギー反応のCoombs分類で自己免疫性溶血性貧血(赤血球に対する自己抗体)・特発性血小板減少性紫斑病(血小板に対する自己抗体)と同じⅡ型に属する(105B44・98I18)」ことはしばしば出題されている。
Goodpasture症候群は免疫複合体性小型血管炎に分類されるのにⅡ型アレルギーというのがややこしいので注意が必要!抗基底膜抗体が直接基底膜を傷害しているのである。
クリオグロビン血症性血管炎
クリオグロビンとは「37℃以下で凝集して、それ以上の温度で溶解する免疫グロブリン」を指す。
クリオグロビン血症性血管炎はクリオグロビンが血管壁に沈着して補体が活性化させられることによって生じるⅢ型アレルギーの免疫複合体性小型血管炎が病態である。
Ⅲ型アレルギーなので低補体血症をきたすということがしばしば出題される。免疫複合体が組織に沈着すると補体が動員・消費されて末梢血中の補体が減少するのである。
C型肝炎や膠原病に合併することが多く、特にC型肝炎との関連が強い。
参考文献
血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版):https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_isobe_h.pdf
血管炎症候群の病態と治療の新しい考え方:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/98/10/98_2601/_pdf
血管症候群について:http://www.pref.kyoto.jp/nanbyou/center/documents/kekkanen.pdf
厚生労働省 医師国家試験問題:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp210416-01.html
コメント
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