神経症性障害総論

精神科

神経症性障害

神経症性障害とは幻覚や妄想などの通常とは異質な精神症状を主症状とする精神疾患と異なり、不安や恐怖など通常とは異質ではない衝動とそれに伴う身体症状を主症状とする精神疾患の総称である。

神経症性障害はかつて心理的な葛藤による「心因性」とされた精神疾患をまとめる総称として使われていた。しかし、現在では操作的診断基準による診断が主流となり「心因性」を重視しなくなったことに加えて、神経症性障害の中には生物学的基盤を成因に持つ疾患も明らかになり「神経症性障害の概念」は解体されつつある。現在では「神経症性障害」という言葉は主に記述的な意味合いで存続している。

解離性障害・転換性障害

心理的葛藤によって起こる精神的な症状を解離性障害と呼び身体的な症状を転換性障害と呼ぶ。

解離性障害では「意識が飛ぶ」ことによって解離性健忘(いわゆる記憶喪失)・解離性遁走(自分の感覚が失われることで失踪して新たな生活を始める)・離人症(自分を外から眺めているように感じる)・解離性同一性障害(多重人格となる)といった症状が起きる。

転換性障害では不随意運動(けいれん・ひきつけなど)や運動障害(部分的脱力・失声・嚥下困難など)が起きる。

解離性障害・転換性障害の治療

解離性障害・転換性障害を根本的に治療できる薬は存在せず、環境調整+精神療法で疾患原因となっている心理的葛藤を改善する。

解離性障害・転換性障害に関する医師国家試験問題

110E43:20歳の女性.声が出なくなったことを主訴に友人とともに来院した.今朝、いつもどおりに大学に行ったが、1限目の講義が終了したころから声がかすれるようになり、1時間後には全く声が出なくなった.友人とともに保健管理室で相談したところ、医療機関へ行くことを勧められたため受診した.1年前から部活動での人間関係のトラブルを契機として、不安感や情動の不安定性が出現し治療を受けていた.受診時、筆談は可能で理解力は保たれ、意識は清明と考えられた.発声できないこと以外に神経学的所見に異常を認めない.血液生化学所見、脳波および頭部CTで異常を認めない.
この患者にみられるのはどれか.

出典:第110回医師国家試験問題

第110回医師国家試験の問題および正答について|厚生労働省
第110回医師国家試験の問題および正答について紹介しています。
  1. 解離
  2. 転換
  3. 離人症
  4. 被影響体験
  5. させられ体験(作為体験)

解答:2.転換

解説:1.←「解離」とは意識や記憶などをまとめる能力が一時的に失われた状態を指す。

   2.←自らが持っている欲求や衝動が「不安」を引き起こす可能性がある場合、内的世界のパーソナリティ(上位自我)はその欲求や衝動を「危険なもの」として閉め出す。この結果、その抑圧された心的エネルギー(心理的葛藤)が身体症状として出現してくることを「転換」という。「不安」を身体症状に肩代わりさせることで欲求や衝動を代償的に満足させて、同時に身体に「罪をきせて」責任を逃れるという利益を得るとされる。「転換」の症状はこのように無意識的な意図のための手段として機能しているので、それぞれの身体症状には象徴的な意味がある。

このケースの患者は人間関係のトラブルから「喋りたくない」という欲求・衝動を持った可能性がある。この「喋りたくない」という欲求・衝動が抑圧された結果、「声が出ない」という身体症状に「転換」されたのではないだろうか。

また、「転換」・「解離」といったヒステリーを引き起こす患者は「拒否しながら他者を受け入れる」という共通の特徴があることが分かっている。例えば失声患者の場合、自らが喋らないことで「他者が自らに対して喋って欲しいと思う」という欲求を引き出す。しかし、自らはその「他者が自らに対して喋って欲しいと思う」という欲求を拒否して喋ることはない。このようにして「他者の願望を満たされないままにして引き続き

他者を自分に関わらさせようとする」のが、「転換」・「解離」といったヒステリーを引き起こす患者にとっては「他者を受け入れる」ということなのである。

「転換」による随意運動機能の代表的な症状は身体の一部に力が入らなくなる部分的脱力(足がすくむなど)・失声・嚥下困難である。

「転換」・「解離」を引き起こす患者は不安障害やパーソナリティ障害を併存していることが多い。

「転換」・「解離」・不安障害・パーソナリティ障害の根本には自我同一性や自己愛の問題が存在するのではないかと推察される。

   3.←「離人症」とは自我意識の障害であり、自らの行為や周囲の環境に現実感・実感が湧かない状態を指す。例えば「外界と自分との間にベールがあり、周囲のものに実感が湧かない」であるとか「何を食べても同じような感じで、砂を噛んでいるようである」とか「自分の身体さえ自分のものであるという感覚がない」というような症状が出る。

   4.←被影響体験はさせられ体験とも呼ばれる。

   5.←させられ体験(作為体験)は統合失調症で見られる症状である。

113A25:18歳の女子.普段と様子が違うことを心配した母親に連れられて来院した.昨日,以前から付き合っていた男性と別れることになったとつらそうな表情で号泣しながら帰宅した.2時間後に母親が声をかけると「お母さん,いつものお菓子作ってね」と普段と異なる幼児的な甘えた態度で訴えた.本人が帰宅した時のつらそうな様子について母親が尋ねても「何のこと」と答え,全く記憶していなかった.神経診察を含めた身体診察に異常を認めない.血液検査,脳画像検査および脳波検査で異常を認めない.
この患者について正しいのはどれか.

出典:第113回医師国家試験問題

第113回医師国家試験の問題および正答について|厚生労働省
第113回医師国家試験の問題および正答について紹介しています。
  1. 昏睡状態である。
  2. 入院治療が必要である。
  3. 認知行動療法が有効である。
  4. 統合失調症の初期である可能性が高い。
  5. ストレスとなった出来事に関する追想障害である。

解答:5.ストレスとなった出来事に対する追想障害である。

解説:1.←「昏睡」とは外部刺激に対して反応がない状態である。

   2.←入院治療は必要ない。

   3.←認知行動療法とは患者に「認知の歪み」を自覚させることで問題を改善する治療である。不安障害・パーソナリティ障害・統合失調症などに有効である。

   4.←統合失調症の初期は抑うつ気分や集中力低下などの非特異的な精神症状が出る。症状を引き起こした原因などを考えると今回のケースは統合失調症と関係ない。

   5.←「付き合っていた男性と別れた」ストレスによって解離性障害が引き起こされたと考えられる。自我同一性がまとまらなくなって「普段と異なる幼児的な人格」が出現する解離性同一性障害が生じたのである。また、「意識が飛ぶ」ことによる一時的な記憶喪失である解離性健忘によって追想障害も生じている。

104A15:解離性(転換性)障害について誤っているのはどれか。

出典:第104回医師国家試験問題

厚生労働省:第104回医師国家試験の問題および正答について
  1. 多重人格が含まれる。
  2. トランス状態が含まれる。
  3. パニック障害がしばしば併存する。
  4. 解離性遁走(フーグ)では解離性健忘を伴う。
  5. 精神分析学的には疾病利得が根底に存在する。

解答:3.パニック障害がしばしば併存する。

解説:1.←多重人格となる解離性同一性障害を含む。

   2.←トランス状態とは「通常とは異なった意識状態」であり、「解離」は「トランス状態」といえる。

   3.←解離性(転換性)障害には不安障害やパーソナリティ障害が併存しやすい。これらの障害には自我同一性の問題が関わってくるが、パニック障害は別次元の病態である。

   4.←解離性健忘によって解離性遁走が引き起こされる。

   5.←精神分析学的には 、転換性障害の場合は「不安」を身体症状に肩代わりさせることで欲求や衝動を代償的に満足させて、同時に身体に「罪をきせて」責任を逃れるという疾病利得を得るとされる。

強迫性障害

不合理な考えが頭の中に浮かんで離れない(強迫観念)ことで、その強迫観念によって生じた不安を取り除こうとする強迫行為を繰り返してしまう疾患である。

患者は強迫行為を不合理であると認識しているが、強迫行為によって実際に不安が緩和されるので繰り返してしまう。

強迫性障害の第一選択薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)である。

102A6:強迫性障害について正しいのはどれか。

出典:第102回医師国家試験問題

厚生労働省:第102回医師国家試験の問題および解答について
  1. させられ体験(作為体験)が併存する。
  2. 強迫観念の内容は了解不能である。
  3. 生活機能が障害されることは少ない。
  4. 第一選択薬は非定型抗精神病薬である。
  5. 患者は強迫行為を不合理であると認識している。

解答:5. 患者は強迫行為を不合理であると認識している。

解説:1.←させられ体験は統合失調症の症状である。強迫性障害には併存しない。

   2.←強迫観念の内容は了解可能である。例えば「人を轢き殺してしまったのではないか」と考え続けるのは不合理であるものの理解可能ではないだろうか。

   3.←例えば強迫性障害の患者は「家を出るときにコンセントの確認・窓の戸締り・ガスの元栓確認を繰り返して1時間以上家をでられない」ということがある。このように生活機能全般が障害される。

   4.←第一選択薬は抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である。

   5.←不合理であると認識しているが強迫行為によって実際に不安が緩和されるので、強迫行為を繰り返してしまう。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

自然災害・性的暴力・戦争などの外傷的出来事体験後、1ヶ月未満でストレス症状が消失する場合を急性ストレス障害とし1ヶ月以上ストレス症状が続く場合をPTSDとする。

強いストレスを経験した直後に生じるのは急性ストレス障害であり、それが1ヶ月以上持続した場合にPTSDとするということである。

日中の「フラッシュバック」または睡眠中の「悪夢」でトラウマになった出来事を繰り返して追体験する。

危険に対して常に警戒する「過覚醒」となり、神経質や不眠といった症状が出る。

映画「アメリカン・スナイパー」ではPTSDに苦しむアメリカ軍兵士が描かれており、PTSDを理解するには良い映画である。PTSD関係なしに見ても面白い映画でありオススメする。

102A29:27歳の女性.一点を見つめ何事にも無関心なのを心配した夫に伴われて来院した.5週前に、帰宅途中に性的暴行を受けた.それ以後家から出ることができず会社を休んでいる.夜も全く眠れず、食欲もなく、急激に体重が減少した.夫が心配して話しかけるが返事をせず、ぼおっと一点を見つめるのみである.
考えられるのはどれか.

出典:第102回医師国家試験問題

厚生労働省:第102回医師国家試験の問題および解答について
  1. 適応障害
  2. 強迫性障害
  3. 社交不安障害
  4. 全般性不安障害
  5. 外傷後ストレス障害(PTSD)

解答:5.外傷後ストレス障害(PTSD)

106C5:外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴ではないのはどれか。

出典:第106回医師国家試験問題

第106回医師国家試験の問題および正答について|厚生労働省
第106回医師国家試験の問題および正答について紹介しています。
  1. 侵入的な回想
  2. 持続的な過覚醒
  3. 周囲への無反応
  4. 外傷体験を回想させる状況の回避
  5. 強いストレスを経験した直後の発症

解答:5. 強いストレスを経験した直後の発症

解説:人間は誰しも強いストレスを感じるとストレス関連障害を発症してしまうものである。 そのため、多くの人が自然災害・性的暴力・戦争などの外傷的出来事体験後は急性ストレス障害となる。急性ストレス障害の予後は良好で時間の経過とともに寛解することが多い。しかし、急性ストレス障害の患者の一部はPTSDに発展してしまう。1ヶ月未満でストレス症状が消失する場合を急性ストレス障害とし、1ヶ月以上ストレス症状が続く場合をPTSDとする。

適応障害

ある特定の状況や出来事によって情動面・行動面に異常が生じる疾患である。

ストレス原因が明確でありストレス原因から離れると症状が改善するのが特徴である。

例えば仕事がストレスになっている場合、勤務日の調子は悪いが休みの日の調子は良いという具合である。

ストレス原因が生じてから3ヶ月以内に発症してストレス原因が終結してから6ヶ月以内に症状が改善する。

適応障害から気分障害になることも多い。

109I3:ストレスが発症の原因となり、それが消失すると一定期間内に症状が消失するのはどれか。

出典:第109回医師国家試験問題

第109回医師国家試験の問題および正答について|厚生労働省
第109回医師国家試験の問題および正答について紹介しています。
  1. 適応障害
  2. 心気障害
  3. パニック障害
  4. 社交不安障害
  5. 心的外傷後ストレス障害

解答:1.適応障害

身体表現性障害

心理的要因が原因となって吐き気・腹痛などの自覚的な症状が現れるが、診察や検査でそれに見合う所見が得られない疾患の総称である。身体表現性障害は心気障害(心気症)を含む。

心気障害

診察や検査で明らかな所見が見られないのに関わらず、ちょっとした身体的不調によって自分が重い病気に罹ったと思い込んでしまうこと。

社交不安障害

共通症状として「他の人々から注視されると上手く行動できず身体症状が出るために、そのような社会的状況を回避してしまう」というものがある。

分かりやすい例だとスピーチが苦手な人は多いが、社交不安障害の患者の場合は苦手というレベルを超えてスピーチの前に赤面・発汗・ふるえなどの身体症状を伴う。

特定の社会的状況のみで症状が出る非全般性社交不安障害と全般的な社会的状況に症状が出る全般性社交不安障害に分けられる。

全般性社交不安障害の患者は「常に緊張状態が続いて心が休まるときがない」という状況になり、「救急車のサイレンを聞くと、孫が事故にあったのではないかと心配になる」というような具合に何事も心配してしまう。

患者は一般的な理解を得られない行動をとることがあるが、これは性格の問題ではなく生まれつきの生物学的に不安を感じやすいという「気質」の問題から生じる病気であるので患者自身を責めてはいけない。患者に必要なのは非難や揶揄いではなく治療である。患者が自分自身を受け入れることができるように手助けをするべきである。

106D12:全般性不安障害の患者の訴えと考えられるのはどれか。

出典:第106回医師国家試験問題

第106回医師国家試験の問題および正答について|厚生労働省
第106回医師国家試験の問題および正答について紹介しています。
  1. 「人前で話すとすぐに顔が赤くなります」
  2. 「おなかの痛みが癌ではないかと心配です」
  3. 「いつも緊張して、休まるときがありません」
  4. 「誰もいないところで発作が起こるのが心配です」
  5. 「鍵をかけたのか、何度も確認しないと気が済みません」

解答:3. 「いつも緊張して、休まるときがありません」

解説:1.←非全般性社交不安障害による赤面恐怖症である。赤面恐怖症の患者は人前で赤面するのを恐れて目をつぶったり、顔を伏せるといった安全行動をとる。森田療法によって、「赤面する自分」を肯定的に受け入れさせて「赤面しても構わない」といった心情を得ることが寛解につながる。また、曝露を伴う認知行動療法で「赤面することは体質の問題であり特に意味をもたないと考えている人間が世の中の多数を占めている」ことを認知させることも有効とされる。

   2.←身体表現性障害の一種である心気障害である。

   3.←全般性社交不安障害の患者は全般的な社会的状況に対して症状が出るので、このように不安対象が漠然としたものになる。

   4.←パニック障害による「広場恐怖」である。

   5.←強迫性障害の患者の訴えである。

社交不安障害の治療

社交不安障害の治療は、薬物療法(ベンゾジアゼピン系抗不安薬+選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRI)で不安を抑えつつ、認知行動療法で患者が不安状況に対処できるようにする。

認知行動療法とは患者の「ものの考え方や受け取り方」といった認知に働きかけて、気持ちを楽にしたりストレスを軽減させる心理療法の技法の総称である。

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