薬理学総論

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薬理学とは

薬物動態学(Pharmacokinetics)

使用した薬物が体内でどのように動き、どのように変化するのかという「薬物自体(薬の一生)」について解明する学問である。

つまり、「生体が薬物に対して何をなすか =What the body does to a drug」を調べる学問といえる。

薬力学(Pharmacodynamics)

薬物が生体にどのように効果を発揮するかという「薬物の効き方」について解明する学問である。

つまり、「薬物が生体に対して何をなすか =What a drug does to the body」を調べる学問といえる。

pHとKaとpKaの定義と薬物の吸収効率

pHとKaとpKaの定義

薬物の吸収効率

ほとんどの薬物は弱い有機酸もしくは有機塩基であり、体内ではイオン形および分子形として存在することになる。

分子形は脂溶性であるので細胞膜を容易に通過することができて速やかに拡散する。一方でイオン形は親水性であるので細胞膜を容易に通過することができない。

このため、分子形存在分率が薬物の吸収に影響を与える因子となり、薬物の細胞膜を通過して吸収される能力を示すことになる。

分子形存在分率は体内環境pHとその薬物のpKaによって決まる。

前述の式でpHとpKaが決まると、分子形とイオン形の比が自動的に定まることから分かるであろう。

例えば、pHがpKaよりも低い場合、酸性薬物では分子形が優勢となるが塩基性薬物ではイオン形が優勢となる。

この状況を体内に当てはめると酸性薬物はpHが低い胃の中では分子形が優勢となり吸収されやすく、塩基性薬物はpHが低い胃の中ではイオン形が優勢となり吸収されにくいというようになる。

遊離型薬物と結合型薬物

薬物は血中で一部がアルブミンと結合して、アルブミン結合型薬物と結合しないアルブミン遊離型薬物とに分かれる。

アルブミン結合型薬物は分子量が大きくなるので血管壁を通過することができず、局所の病巣部で薬効を発揮することができない。

一方で、アルブミン遊離型薬物は血管壁を通過して病巣部で薬効を発揮できる。

結合型と遊離型の比率は薬物ごとにおおよそ決まっているため、遊離型薬物が使われて血中量が減るにつれて、結合型薬物のアルブミンと薬物の結合が外れて遊離型薬物となっていき薬効を発揮するようになる。

このため、アルブミンと結合率が高い薬物は薬効が発揮されるまで時間がかかるものの、血中に結合型が長く残存して徐々に遊離型を供給することになるので持続的に薬効が発揮されることになる。

薬物代謝過程

脂溶性の高い(極性の低い)薬物はそのままでは腎から排泄することができない。

糸球体で濾過されて尿細管中に排泄されたとしても近位尿細管で受動拡散によって脂質二重層を通り抜けて血中に再吸収されてしまうからである。

そのため、そのような薬物は肝臓で代謝(極性化反応)を受けて親水性を増した代謝物(抱合体)となってから腎臓から排出されることになる。

シトクロムP450(CYP)

薬物代謝の中心臓器である肝臓に最も多く存在している主要薬物代謝酵素であり、薬物代謝の第Ⅰ相反応に関わる。また、小腸にも豊富に発現することが知られており、グレープフルーツジュースは小腸におけるCYP3A4を阻害することによって薬物の血中濃度を上昇させる。

グルクロン酸転移酵素(グルクロニルトランスフェラーゼ)

生体が体外へと排出したい脂溶性の化合物を水溶性に変換する(極性を高める)ために、脂溶性が高い化合物に水溶性が高い分子を結合させる反応を抱合という。

グルクロン酸転移酵素は肝細胞において薬物などの化学物質やビリルビンなどの老廃物に対してグルクロン酸抱合を行なっている。薬物代謝の第Ⅱ相反応に関わる。

ABCトランスポーター

ATPase活性を有する膜タンパク質であり、肝臓・腎臓・血液脳関門などにおいてATPの加水分解によって得たエネルギーを用いて薬物や生体異物を輸送する役割を果たす。グルクロン酸抱合された薬物代謝物を肝細胞外に輸送する第Ⅲ相反応に関わる。

薬物の生体利用率

投与された薬物が全身循環に到達する割合を表し、薬物が静脈内投与された場合の生体利用率を100%とする。

経口投与

最も効果発現が遅い。

初回通過効果

主に経口投与された薬物が全身循環に入る前に、消化管で吸収されて門脈を通じて肝臓に到達して代謝されることで薬効が減少することを指す。

非経口投与された薬物は全身循環に入る前に肝臓を通過しないので初回通過効果を受けることはない。もちろん、全身循環に入った後は最終的に肝臓で代謝されてから体外へと排出されることになる。

注射による投与

静脈内注射は直接血管内に注射する。筋肉内注射と皮下注射は直接血管内に注射するわけではないので吸収が問題となるが、血管の多い筋肉内の方が皮下よりも吸収が早い。

薬効の即効性を期待する場合には静脈内注射が選択されて、薬効の持続性を期待する場合には皮下注射が選択される。

静脈持続投与

カテーテルを静脈内に留置して持続的に薬物を注入することで薬物血中濃度を一定に保つことができる。

舌下投与

口腔粘膜の下層には多数の毛細血管が分布しており、これらの毛細血管から吸収された薬物は内頸静脈を経由して直接心臓に到達してから全身循環に入る。

例えば、ニトログリセリンは経口投与した場合に初回通過効果を大きく受けてしまい薬効を失うので、狭心症発作時には薬効がすぐ発揮されることも期待して舌下投与される。

薬物血中濃度-時間曲線

Cmax

Cmaxは薬物の最高血中濃度を指す。

C1/2

C1/2は薬物の最高血中濃度の50%を指す。

Tmax

Tmaxは薬物の最高血中濃度に達するまでの時間を指す。

T1/2

T1/2は薬物の血中濃度の生物学的半減期を指す。

AUC(薬物血中濃度-時間曲線下面積)

薬物血中濃度-時間曲線の積分値(面積)を指す。

「どのくらいの濃度で、どのくらいの時間、薬物が体内で作用を発揮したのか」を表す。

また、体内に吸収された総薬物量の目安となり、静脈内投与した場合のAUCを100%として他の投与方法を行った場合のAUCを表すことで、その投与方法での生体利用率を求めることができる。

KmとVmaxについて

Kmとは酵素に対して基質が飽和して最大の反応速度(Vmax)が得られる、基質濃度の最小値を半分にした値である。つまり、Vmaxの半分の濃度が認められる基質濃度を指す。

競合的阻害剤存在下

競合的阻害剤は基質と構造が類似しており酵素の活性部位に結合することができる。このために競合的阻害剤存在下では基質と競合的阻害剤が酵素の活性部位を競合して奪い合うことになる。

しかし、基質濃度が十分に高まるにつれて競合的阻害剤の影響は小さくなり、やがて反応は競合的阻害剤が存在しない状況下におけるVmaxに到達することも可能になる。このときのKmは基質濃度の高まりとともに大きくなっている。

非競合的阻害剤存在下

非競合的阻害剤は酵素が基質に結合しているかどうかに関わらず酵素に結合することができ、酵素の活性を阻害する。非競合的阻害剤存在下では基質濃度をいくら高めても非競合的阻害剤の影響を無くすことができない。

このために非競合的阻害剤存在下におけるVmaxは非競合的阻害剤が存在しない状況下におけるVmaxよりも低くなる。しかし、Kmは非競合的阻害剤の影響を受けずに同一となる。

用量反応曲線

薬理効果が現れる最小投与量をED0、50%の個体が反応する薬物投与量をED50、100%の個体が反応する薬物投与量をED100とする。中毒量(TD)と致死量(LD)も同じである。

治療係数(安全域)

薬物の安全性の指標であり、治療係数(安全域)が大きいほど薬物の安全性は高くなる。

治療域

治療域は薬物の効果がありながら副作用が出現しない薬物血中濃度の範囲を指す。治療域が広いほど安全性が高く、治療域が狭いほど安全性が低い。安全域と似た言葉であるが区別する。

抗がん剤は一般的な薬剤と比較すると治療域が狭いので、どうしても副作用が避けられないという特徴がある。

ED50とEC50の違い

ED・TD・LDは薬物投与量と投与集団内の反応個体の割合との関係を表す指標であり、量子的用量-反応関係を表している。

一方で、EC50(50%効果濃度)は薬物投与濃度とある1つの個体が示す薬物効力との関係を表す指標であり、計量的用量-反応関係を表している。

薬理学などにおいて概念として薬の効力を考えて解析する場合には計量的用量-反応関係が用いられるが、医薬品開発においては測定・解析しやすい量子的用量-反応関係が用いられる。

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